BLOGしのざ記

Today 2024/04/18

イベント「岸本佐知子トークショー 〜本、私、翻訳〜 」

【登録日: 2018年11月05日 】

本日は、11月4日に開催した

「岸本佐知子トークショー 〜本、私、翻訳〜 」

の模様を遅ればせながらお伝えします。

お招きしたのは、翻訳家の岸本佐知子さんです。

 

外国文学の翻訳やアンソロジーの編訳、

エッセイを執筆されるなど、大変ご活躍の岸本さん。

篠崎図書館館長の波多野吾紅が、翻訳の裏話や本の魅力、

日々感じていることなどをざっくばらんにうかがいました。

 

 

 

たくさんの作品を手掛けられている岸本さん。

当日はファンの方をはじめ、多くの方にご参加いただきました。

 

 

 

会場には岸本さんが翻訳、編訳された作品、アンソロジーなどのほかに

読書週間の特別企画としてお選びいただいた30冊の本も展示しました。

 

 

最初のお話はずばり、翻訳について。

翻訳の師匠である先生から最初に叩き込まれたという、

岸本さんが今も実践されている翻訳の仕方や、

その作業を進めるときの工夫のこと。

 

そして、大変厳しかったという先生や、

翻訳学校に通われていた当時の苦労話も。

驚くことに、お勉強を始めた当初は評価が芳しくなかったという岸本さんですが、

翻訳は、突然かくんかくんと上手になるものだと感じられているそうです。

勉強をし続けることが、何より大切だということでした。

 

 

次は最新作、「最初の悪い男」についてのお話です。

この話題では、岸本さんが物語や登場人物、

ひいては作品や著者に思い入れを持って翻訳をされていることがうかがえる、

興味深いお話を聞くことができました。

 

作者ミランダ・ジュライの作品を岸本さんが翻訳されるのは

「最初の悪い男」が3作目。

あらすじや登場人物たちについてはこのブログでは割愛しますが、

読者が共感できないようなとんでもない登場人物たちを軸に、物語はすすみます。

本作も含め、「ある人とある人が出会って反応が起きる」こういう話を

書いている作家はあまりいないのでは、と岸本さんは感想を持たれているそう。

他にも、作品への感想をたくさんお聞きました。

 

さて岸本さんは、書評を書かれたり、アンソロジーを作られたりと、

翻訳以外のお仕事でも活躍されています。

「変愛小説集」などの、アンソロジーのお仕事はとっても楽しいのだそう。

多くの作品の中から「いいとこどり」をできて、完全に自分の世界を作ることができる、

「翻訳家にとって夢の仕事ではないか」とおっしゃっていました。

アンソロジーができるまでの裏話を、他にもいろいろお聞きすることができました。

 

 

冒頭でも少しご紹介しました通り、篠崎図書館では読書週間の特別企画として、

30冊のおすすめ本を岸本さんにご紹介していただきました。

岸本さんはお仕事がら、選書を任されることが多い、とのことです。

書店での場合は絶版本を選ぶことができませんが、図書館はそうではありません。

「脳内まやくを出しながら30冊選んだ」とのことで、

岸本さんの好みがうかがい知れる、一風変わったラインナップになっています。

 

30冊の中の1冊「HERE」という本の話題から、

手でページをめくるからこその、本の可能性、

そして電子書籍についてのお話に移ります。

 

電子書籍もそれはそれでいいと思う反面で、

いつか読もう読もうと思って、何冊も読まないまま本を積んでしまう

いわゆる「積ん読」も、読書のうちだと考えていらっしゃるという岸本さん。

あそこにあの本があるなあと感じながら日々過ごし、

あるとき急にそれを読みたくなる、そうして読んでみたらおもしろい。

電子書籍も便利だけれども、「物」があることによって感じる圧迫感のようなもの、

そこから生まれる読書の楽しみ方についてのお話でした。

 

話題は岸本さんのOL時代のことへ。

岸本さんが翻訳家になる以前、約6年半勤めたOL時代の苦労話と、

それから翻訳学校に通いはじめるまでの経緯を、たくさんのエピソードを

交えてお聞きしました。

そういった経験から、若い人から「翻訳家になりたい」と言われたとき、

岸本さんは「まず会社に勤めなさい」とおすすめされるのだそうです。

会社という制約の中での経験が「だって絶対に役に立つ」から、というお話でした。

 

岸本さんの子供のころの愛読書、ルナールの「にんじん」のお話もありました。

作品そのものについてから、岸本さんの幼少期の読書生活を

うかがい知れるようなお話まで盛りだくさんです。

そして、「クマのプーさん」や「ちいさいおうち」のなどを翻訳をされている

翻訳家・石井桃子さんの話題になり、続いて翻訳で使う辞書のお話に。

岸本さんが翻訳を始めたころにはまだ電子辞書がなく、調べものに

様々な苦労があったこと、さらに関連して、

こだわりのワープロのお話もきくことができました。

岸本さんのみならず、翻訳家、作家の方々の仕事道具へのこだわりが感じられます。

 

 

トークショーの終わりが近づいて、最後の締めについて

「特にないなんて言ったら......」という岸本さんの言葉に笑いが起きる場面も。

「翻訳された本をぜひ読んでみていただきたい」という言葉で、

トークは終わりになりました。

 

岸本さんの気さくでやわらかい雰囲気と、様々なエピソードを交えたお話に、

会場の皆さまからはときどき笑いが起きたり、真剣な表情で耳を傾けられたり、

和やかで、なおかつ充実した時間を過ごされていたように感じます。

 

その後の質疑応答のコーナーでは翻訳に関すること、

作品に関することなど、新たに興味深いお話をきくことができ、

さらにトークショーの閉幕後には、会場に残ってくださった岸本さんの前に

参加者の方の長い列が。

個別に質問をされる方や、持参の本にサインを求める方の姿が多く見受けられました。

 

今回のトークショで、翻訳家・岸本佐知子さんに、そして翻訳された外国文学にも、

今まで以上に興味を持っていただけたのではないでしょうか。

新たなお気に入りの一冊との、出会いのきっかけになりましたら幸いです。

 

また、こちらのブログでは、トークショーの大筋だけを

簡単にお伝えする形になりました。

それをもったいなく思いますので、さらに詳しい模様を

後日新たなブログでご紹介する予定です。

そちらもぜひお楽しみに。