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スタッフおすすめ!スタッフのオススメ その7「アウル・クリーク鉄橋での出来事」

【登録日: 2010年07月21日 】
今回は芥川龍之介が影響をうけたというアメリカの作家アンブローズ・ビアスの短篇です。

人間は誰しも、いずれは死ぬのだ。それは分かっている。病気で死ぬのか、事故で死ぬのか、殺されて死ぬのか・・・。それは誰一人、知ることはできない。

 この短編小説の主人公、ペイトン・ファーカーは、南北戦争時代のアメリカ、アラバマ州の男である。南部の大義を熱烈に支持しており、兵士として名をなすのを夢見ながらそうもできず、無為の生活を送っていた。そんな彼に、一つの出来事がおこる。妻と屋敷の入口近くにあるベンチに座っていたとき、とある一人の兵士が一杯の水を求めてきたのだが、そのとき兵士はファーカーの求めに応じて、アウル・クリーク鉄橋における北軍の様子を語って聞かせたのである。話によると、敵は鉄橋を修復し、北岸に砦を築き終わったところ。そして、いかなる非戦闘員でも、鉄道、鉄橋などの妨害を計っている現場を押さえられれば、ただちに絞首刑に処されるという布告が、いたるところに掲示してあるらしい。ファーカーはそのとき、自分が南軍のためにできることを思い付くのだった・・・。


 短編は、アウル・クリーク鉄橋の上で、ファーカーの絞首刑が今にも実行されようとしているところから始まる。彼は足下の川を見ながら「この両手を自由にできるなら」と思うのだが、非情にも橋から落とされてしまうのだった・・・。

 ビアスは、基本的にはジャーナリストの人間で、作家としてはこの短編を含む『いのちの半ばに』と警句集『悪魔の辞典』のために文学史に名を残したという人物である。芥川龍之介が絶賛し、最初に日本に紹介したことでも有名だ。ニヒリズムとペシミズムを根底に有しつつ、緊密な構成をもった短編を彼は書いた。また、巧妙なオチで締めくくる短編も多く、この「アウル・クリーク鉄橋での出来事」にも、アッと言わせるオチが待ち構えている。しかし、そのオチはヒヤッと背筋が寒くなるといった類のものなので、ご注意を。


「アウル・クリーク鉄橋での出来事」ビアス著 (『ビアス短編集』岩波文庫より)