BLOGしのざ記

Today 2024/04/20

イベント「翻訳がつなぐもの 〜日本翻訳大賞選考委員によるスペシャルトークショー〜」を開催しました。

【登録日: 2023年01月22日 】

本日、篠崎図書館で、

翻訳がつなぐもの 〜日本翻訳大賞選考委員によるスペシャルトークショー〜

を開催しました。

 

日本翻訳大賞の選考委員で翻訳家の

岸本佐知子氏・柴田元幸氏・西崎憲氏・松永美穂氏が

同賞にまつわる様々なお話を語ってくださいました。

話題は「良い翻訳とは」、さらに

混迷の時代に翻訳が果たす役割などについても広がりました。

 

 

「日本翻訳大賞」は翻訳作品を対象にした賞です。

作品自体の魅力に加え翻訳の素晴らしさや意義など、

翻訳者の訳業に焦点を当てた独自の賞として今回第9回を迎えます。

一般読者の推薦を受けるということが重要なポイントの一つです。

現在の審査員は岸本佐知子氏・齋藤真理子氏・柴田元幸氏・西崎憲氏・松永美穂氏の5名です。

 

 

まずは自己紹介と近況報告の後、これまでの翻訳大賞の中で、

印象に残ったことをそれぞれお話しいただきました。


 

「授賞式自体がとても面白く、

特に受賞者が自作を朗読するのがすばらしい」と岸本さん。

 

柴田さんは「これまでの8回を振り返って、

(受賞作が)言語的にバラエティーに富んでいるのが誇り」だそうです。

 

 

西崎さんは審査において、良い翻訳とは・・・と考えたとき

訳文と作品がすばらしいことに加え、

「よくぞこの作品をこの時にこの日本で出してくれた」という

紹介の意義に重きを置いていらっしゃるそうです。

それを受けて柴田さんも最終候補作を読んでいる間に

「この人がこの本を訳してくれて良かったと思える瞬間があるかどうか、

それが複数回あるものを推したい」とおっしゃっていました。

 

トークショーの終盤、話題は、混迷の時代における翻訳の役割へと広がります。

 

岸本さんは「体感的にだんだんと生きづらい世の中になっている。特にこの10年は息苦しい。

みんな余裕がなくなってくると自分の見知った世界にだけお金を使いたくなる。

書籍通販サイトの売れ筋がいわゆる「鉄板」ばかり…そうなると空気が濁ってくる」と危機感を募らせます。

そんな状態だからこそ「そうではないヘンなものを読んでほしい」のだそうです。

あまりメジャーではない変わった作品をいろいろ翻訳してくれる岸本さん。

これからも「ヘンなもの」に出あわせてくれそうな予感がします。

 

松永さんは、今日は来られなかった選考委員の斉藤真理子さんが

かつて日本翻訳大賞を受賞された頃から、韓国文学が日本で広がって

「韓国文学を通して韓国の人の声が届くようになった」とおっしゃいます。

「翻訳って報道では届かない、その国の人の声が届く。今を伝えるものとして翻訳文学がある。

(ご自身が携わっている)ドイツ文学は戦争に関連するものが多く、

それはもちろん大事で伝えていくべきだが、新しいドイツ語圏の作品も紹介していきたい」と

力強く語っていらっしゃいました。

 

最後に西崎さんが、ギターで弾き語りを披露してくださいました。

オリジナルソング「日本翻訳大賞一般推薦の歌」!

 

日本翻訳大賞一般推薦のお知らせ〜

1月15日から31日まで〜

選考委員は・・・(全選考委員の名前)

どなたでも 推薦できます

あなたの好きな翻訳を ぜひ教えてください

言葉が変われば 広がってゆくよ〜

言葉が変われば 伝わってゆくよ〜

日本翻訳大賞一般推薦のお知らせ〜

1月15日から31日まで

待ってます 待ってます

 

歌い終わると会場は拍手に包まれました!

 

質疑応答では「老人と海」の新訳についての質問や

「苦海浄土」をその地方の言葉ではない言語で表現することの難しさを踏まえ、

訳すことで作品をそこねるのではないかと思ったり、

訳さないで原文で読んでほしいと思ったりしたことはあるかという問いが投げかけられました。

それについては「訳さないと、読める人が限られてしまう」(松永さん)

「良くない訳でも出た方がいい。出なかったら海外の文学はないことになってしまう。

ひどい訳なら、誰かがそのあと必ず良い訳を出してくれるから」(西崎さん)とのこと。

翻訳の難しさを最も痛感しているであろう皆さんであるからこそ、

訳すということへの覚悟が感じられました。

 

本講演が、来場された皆さまにとって翻訳文学に親しむきっかけになれば幸いです。