BLOGしのざ記

Today 2024/04/25

図書館員のつぶやき図書館員のつぶやき&スタッフのオススメ その19 「この世界の片隅に」

【登録日: 2011年08月21日 】
日本は今年で戦後66年目を迎えました。


戦争の記憶は薄れてゆく中、今年は3月に大震災があり
再び復興という言葉が使われる世の中になっています。


そんななか、今回ご紹介する「この世界の片隅に」
を思い出しました。

「夕凪の街 桜の国」で原爆投下から10年後の
広島を描いたマンガ家、こうの史代さんが、本作では
昭和18年から20年に広島で生活する主人公と
その一家の日常生活を描いています。

北川景子さん主演で、今月はじめにドラマ化もされました。

2009年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞の受賞作です。


ここに描かれているのは、もちろん戦時中ではありますが、
そこには当たり前の日常があり、人々は今と変わらず
小さな事で笑ったり泣いたりしている世界です。

主人公も、家事の合間に好きな絵を描いたり
嫁いだ先で小姑さんに意地悪されたり、ごく普通の女性です。

そんな日常が徐々に戦争により壊されてゆく。

他の戦争マンガとは違い、直接的な凄惨な描写は
少ないですが、だからこそ戦争の残酷さを際立たせて
いるような気がします。


66年前の戦時中にも、人々は生き、誰かを愛し、誰かに
愛されていました。
それが今も続いていて欲しい、という願いは
最終章に託されています。

世界の片隅で生きるちっぽけな存在の我々の、
そんな当たり前の日常が続いてゆくことこそ
奇跡なのだ、ということを教えてくれるような
作品ではないでしょうか。


そして、この3月の震災で、再び日常が
脅かされることになりました。


今あるあらゆる日常が奇跡だという事。

今を生きる我々は、一日一日を精一杯生き、
ささやかな奇跡が続くよう努力しなければ
ならないのではないか。


そんなごく普通の事をじっくりと考えてみる
八月を迎えているような気がします。


「この世界の片隅に(上・中・下)」 こうの史代著 双葉社