BLOGしのざ記

Today 2024/04/27

スタッフおすすめ!スタッフのオススメ その30 「夢果つる街」

【登録日: 2013年05月31日 】
重松清の「哀愁的東京」という連作短編集を読んで以来、中年男の哀愁について
考えることが多くなった。

「哀愁」を簡単にいうと「寂しくもの悲しい気持ち」。
年を重ねていくと、楽しいことよりも、そんな「寂しくもの悲しい気持ち」の方が
多くなってくるものなのではなかろうか。最近、特にそう思うのである。

さて、そんな私がそんな気持ちで手にした本が、
トレヴェニアンの「夢果つる街」
である。

ザ・メインと呼ばれる、カナダはモントリオールの一地区がこの小説の舞台である。
ザ・メインは、いわゆるスラム街であり、移民の溜まり場だ。主人公は若くして妻を失い、
動脈瘤という爆弾を抱えた53歳の中年男、ラポワント警部補。登場する人物たちは、
ほとんどが過去に傷を持つものばかりであり、世間一般に言う「幸せ」を体現しているものは
一人もいない。

例えば、酒場にたむろする浮浪者たちから嫌われている、「老兵」というあだ名の浮浪者。彼は、自分の住み家を持っていると公言しているために嫌われている。しかし、当然のことながら老兵に普通の住み家があろうはずはない。人里離れたところに穴を掘って、そこを「住み家」と言っているだけなのだ。なぜ彼はそんなことを言うのか。答えは簡単。家があるという嘘をつくことで、己の最後のプライドを保とうとしているのである。哀しいなあ…。
しかし、こんなタイプの人って、いますよね…。

それはともかく、ストーリーはこのザ・メインで起こった殺人事件から始まる。一応、ミステリー仕立ての小説となっているが、単なるミステリーというには曰く言い難い味わいがあるように、私は感じた。人間ドラマを読みたいという人にも十分面白い読み物となっているので、ぜひ手に取って読んでほしい作品である。

さて、本作の最後の方で、ラポワントが静かに泣く場面があるのだが、人生に哀愁を感じている人ならば、思わずもらい泣きしてしまうのではなかろうか。もちろん、中年男限定である。

「夢果つる街」トレヴェニアン著 B933ト 篠崎所蔵